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2013年(平成25年)
 10月15日
  第28巻4通卷187号
  昭和62年5月22日第三種郵便物認可

チャップリン>187号

 

入院日数がどんどん短くなっている 〜DPCの謎
【介護報酬とは異なる診療報酬の仕組み】

全国的に病院の入院期間がどんどん短くなってきています。病院を退院して在宅に戻ったり、介護施設に入居しても、なお医療を必要とする機会が増えていることから、皆さんも、「長期入院できない」 ことは実感しているのではないでしょうか。入院期間が短くなっている背景には、医療技術の進歩によって治療にかかる時間が短くなっているということもありますが、もう一つ、大きな要因となっているのが「DPC/PDPS(1日当たりの定額報酬算定制度)」という新たな支払い制度です。今回は、このDPC/PDPSについて紹介します。
■診療報酬は出来高支払い、包括支払いの2種類
介護報酬は、介護サービスの種類ごとに「単位」が決まっています(1単位は平均10円ですが、事業所のある地域によって加算率が変わります)。よって、介護報酬の計算式は、「各サービスの単位×地域別単価」となります。診療報酬の場合、単位ではなく「点数」といい、介護報酬と同様に、「注射は○点」、「画像診断は○点」など、医療行為ごとに点数が決まっています。介護報酬と異なるのは、全国一律「1点=10円」なので、「各医療行為(サービス)の点数×10円」の合計で計算されます。初診料、注射代、処方代…と、行われた医療行為の点数を積み上げて診療報酬が決まるというわけです。
 このように医療行為を行ったら行った分だけ報酬を得られる「出来高払い」に対して、病気ごとに1日に得られる点数を定めた包括払い制度が「DPC/PDPS」です。わかりやすく介護保険に当てはめれば、使っただけ費用が発生する居宅サービスと、何回・何時間使おうと1ヶ月あたりの報酬単価が変わらない小規模多機能型施設の違い、と言ってもいいと思います。

■DPC/PDPSで入院期間が短くなる理由
 DPC/PDPSが始まったのは、2003年。大学病院など全国82の病院から始まり、2011年4月現在では1449病院が参加しています。これは、全国の病院の約2割弱に当たります。ただし、ベッド数でみると、半数を超えています。つまり、大きな病院ほどDPC/PDPSに参加しているということになります。これまで通りの出来高払い制度で計算するか、包括支払いのDPC/PDPSを導入するかは、それぞれの病院が選べるようになっています。DPC/PDPSでは、入院基本料や投薬、注射、検査、1000点未満の処置にかかる費用は、日当点に包括され、「この病気の場合は1日○○点」とあらかじめ決まっています。そして、算定できるのは、1入院につき、1病院のみ。つまり、同時期に同じ病院で2つの診療科にかかることはできない仕組みになっています。ただし、手術や麻酔、手術中の薬剤、リハビリテーションなどの費用は出来高支払いのままです。また、あくまでも「1日○○円」という設定なので、入院期間が延びれば、その分、病院が得る診療報酬も増える仕組みです。
 では、なぜ入院期間がどんどん短くなっているのでしょうか。実は、日当点(1日当たりもらえる点数)の設定は、入院期間に応じて3段階にわかれていて、病気ごとの全国平均の入院期間より長く入院させていると、日当点が低くなるのです。つまり、長く入院させるとそれだけ1日に得られる診療報酬が少なくなっていく仕組みになっています。そのため、病院としては早めに退院してもらって、新しい患者を入院させたほうが、高い診療報酬が得られるというわけです。そして、それぞれの病院が入院期間を短くしようと努力する結果、全国の平均入院期間も年々短くなり、高い点数を得るためにはさらに短くしなければいけない…というスパイラルが起こっています。

■包括支払いだと、必要な医療が削られる?
 では、このDPC/PDPSという制度、患者さんや病院にどんな影響があるのでしょうか?
 よく指摘されるのが、「包括支払いになると、手抜きになるのでは」という不安です。行われた治療の内容にかかわらず、病気ごとに日当点が決まっているため、病院にとっては医療資源を使わなければ、その分利益が大きくなります。そのため、必要な医療が行われないのではないか、と不安に思う人もいるでしょう。しかし、ご安心ください。DPC/PDPSでは、「いつ、どの医師が、どの患者に、どんな医療を行ったのか」というデータをまとめ、厚生労働省に提出することが義務づけられています。そして、データは、厚生労働省のホームページに公開されています。また、「1入院1病院のみ」、「3日以内の再入院は1入院としてみなされる」ことも、手抜き医療を防ぐ仕掛けです。
 たとえば、入院中に感染症にかかったり、治療が原因で別の病気(合併症)を引き起こした場合、これまでの出来高払い制度では、それらの治療に対しても診療報酬が支払われていました。感染症、合併症を起こすことは、もちろんいいことではありません。それなのに報酬は増える。矛盾していますよね。
 DPC/PDPSでは、感染症にかかろうと、合併症を起こそうと、1入院1病院なので、一度入院したら、その病名以外の治療にかかる費用は病院の持ち出しになります。また、3日以内の再入院は、同じ病気に対する治療とみなされるので、入院期間はリセットされず、日当点は低いままになります。質の高い医療を行っている病院が損をしないよう工夫されているわけです。ただし、「1入院1目的」が原則のため、もし複数の病気を持っていても、緊急を要する病気でなければ、入院しながら他の診療科も受診するということはできにくくなっています。やむを得ない場合以外は、いったん、退院してもらうのが一般的のようです。

■DPC/PDPSになると、何が良い?
 このほか、DPC/PDPSが患者さんにとってのメリットには次のようなことがあります。

 [医療のムダが減る]
 医療行為を行えば行った分、診療報酬が増える出来高支払いとは異なり、DPC/PDPSの下では、病院は「最低限必要不可欠な治療」というシンプルな医療をめざします。そのため、重複した検査や、「とりあえず」行われていたような処置などは減らす努力が行われています。

 [治療手順が標準化される]
 「DPC」というと、お金の話になりがちですが、実は「医療の透明化」が本来の目的。全国の病院の治療行為に関するデータを集めることで、どういう治療が行われているのかを比較できるという大きなメリットがあります。
 個々の病院も、
 「他の病院と比較してムダな治療を行っていないか」、
 「投薬期間は適切か」、
 「食事の開始時間は適切か」
など、比べることができるようになるため、治療の標準化が進んでいます。

 
[病院を比較しやすい]
 DPC/PDPSに関するデータを使って病院経営や医療の質を改善しようという試みは、すでに始まっています。このデータは、患者さんにとっても有効で、前述の厚労省のホームページから見ることができるほか、病気ごとの症例数(実績数)、平均入院期間であれば簡単に比較できる再度が登場しています。
 『病院情報局』や『病院らしんばん』などが知られています。ちなみに、上の『病院情報局』で検索すると、脳梗塞(手術なし)では入院日数が最も短い病院は平均4.3日、長い病院では20日を超えるところもあります。胃がん(全摘出手術)でも最短で15日、長いところでは27日を超えています。

 [料金がわかりやすくなる]
 治療代は退院時などに会計に行かなければわからない、というのが一般的でした。でも、DPC/PDPSの場合はあらかじめ日当点が決まっていて、平均的な入院期間がわかるため、事前に費用の目安がわかります。まだまだ少ないですが、一部の病院は、それぞれの病気ごと、手術ごとに、費用の目安をホームページなどで伝えています。

 
[早く退院できる]
 入院期間が短いということは、早く社会復帰したいと望む人にとってはありがたいもの。
 一方で、高齢者などで介護が必要になり、すぐに在宅復帰ができない場合は、老人保健施設などの受け皿を探したり、最悪の場合、行き場のない「介護難民」になる可能性もあるため、いちがいに「早く退院」=「ありがたい」とはいえない面があります。

■DPC病院が増えているのは、儲かるから?
 出来高払いよりも、一見、厳しそうなDPC/PDPS制度を導入する病院がなぜ増えているのかというと、一つは「DPCを導入すると収入が増える」という噂があったからです。
 実際、制度が始まった当初は、対象病院数を増やすために、出来高で算定するよりも高くなるように調整されていました。ところが、対象病院数が増えた今、そうしたメリットは薄れつつあります。それでもDPC/PDPSを導入するのはなぜでしょうか。それは、病院ごとのデータが公開されているため、つねに評価・比較されることで、「選ばれる病院」となるための「競争原理」のなかで、生き残りをかけているからです。