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2014年(平成26年)
 1月15日
  第29巻1通卷188号
  昭和62年5月22日第三種郵便物認可

チャップリン>188号

 

今年は介護ロボット元年
〜カギを握る介護保険制度の改正〜

 介護従事者の負担軽減の観点から、介護現場においてロボット技術の活用が強く期待されています。その一方で、こうした先進的技術を利用した介護機器の分野は、市場性・安全性・実用性の問題から開発・製品化がなかなか進んでいません。これらの障害を克服するため、経済産業省は、
 ・現場のニーズを踏まえて重点分野を特定
 ・ステージゲート方式で使い易さと向上とコスト低減
 ・現場に導入するための公的支援
 ・制度面の手当て
をコンセプトとし、平成25年度より、5つの事業分野(コンセプト)からなる「ロボット介護機器開発・導入促進事業」を2013年からスタートさせた。このように介護現場での普及が期待される介護ロボット。2015年度に予定されている介護保険制度の見直しで、介護ロボットの介護保険適用製品が増加すれば市場拡大が見込まれるとされている。この一方で、先行企業の中には、欧州中心に海外市場で先行して実用化を目指すケースが目立つ。
 その背景には、保険適用などの課題などがある。医療・介護ロボットは、はたして世界で勝てる産業に育つのか?
 実用化を目指す動向が気になる。

■ドイツ、中国など海外市場に先行投入
 国内では医療機関などに「HAL福祉用」を開発・提供するCYBERDYNEは、欧州での先行実用化を目指して活動を強化している。8月にはEU市場で医療機器としての販売で必須なCEマーキングを取得した。
 また、ドイツでは労災保険も適用済みで、事業化のペースを加速している。今後、ドイツでの医療保険適用を目指すとするが、EU各国への普及を果たし、さらには、その実績を背景に日本市場への"逆輸入"を狙っていると思われる。
 アザラシ型のセラピーロボット「PARO(パロ)」を販売している知能システムも、デンマークやイタリアなど欧州で積極的に実証試験を実施している。パロと接することで認知症に関連する問題行動の改善などを期待できるという。パロの開発者である産業技術総合研究所の柴田崇徳上級主任研究員は、「ほとんど海外からの引き合いで始めた。海外では大学などの臨床研究に大きな公的予算がつくという背景がある」と説明する。
 一方、産業用ロボット大手の安川電機は、新規事業として取り組む介護機器事業では、日本ではなく中国をメインターゲットとしている。同社は産業用ロボットで培った技術を生かし、脳血管疾患患者の運動機能回復に役立つリハビリ装置を開発、2014年度以降の市場投入を目指し準備を進めている。日本での販売には医療保険の適用が重要だが適用範囲についての審査に時間がかかるため、中国での販売を先行する。中国は、日本のような充実した保険制度はないが資金余力を持つ富裕層が多く1台数百万円の介護ロボットでも購入したいという顧客が多いという。中国で実績を積み上げ、早期の事業化につなげる。

■欧州認証にスピード感を
 日本企業が医療・介護ロボットで欧州などに進出する背景には、柔軟性のある医療環境がある。日本は製品の安全性が厳格で、臨床試験宣言した後の臨床データしか使えないなど条件が厳しい。医療保険の対象許可にかかる時間も欧州に比べ長い。事業化を狙う研究者やベンチャー企業にとって欧州市場のスピード感は魅力的だ。実際にサイバーダインはドイツ政府と連携を始めてから3年で労災適用に至っている。
 また、欧州での実証試験は厳しく、結果についての信頼性が高いのも特徴。良い結果が出れば社会への導入が進みやすい。CEマーキングや欧州特定有害物質規制(RoHS)などの規制やルールも厳しく、「クリアすれば安全性を示すことができ、訴訟リスクを減らせる」(柴田上級主任研究員)効果もある。ビジネスとして医療・介護ロボットを捉えれば、早期に事業化でき、少しでも投資回収ができる欧州など海外市場を優先するのは企業にとって当然の選択肢といえる。

■当面の普及には保険適用がカギか
 介護保険制度が創設された2000年度の総費用は3兆6,000億円だったが、2012年度には8兆9,000億円と倍以上に増加。その多くは介護者の人件費だ。経済産業省や厚生労働省などが介護ロボット実用化に注力する背景には、増加し続ける介護保険費用の適正化という問題がある。介護ロボットが実用化すれば、総費用圧縮が期待できるとの算段だ。ただ、介護ロボットの普及促進のカギも、相矛盾するようだが介護保険が握る。保険適用されれば利用者の費用負担が下がり、普及する環境が整い、企業にとっては、ビジネスの本格スタートになるといえる。リハビリロボットなどは医療保険の適用がカギとなる。
 医療ロボットを手がける企業のトップは「量産効果が見込めない限り、価格は下げられない。そのためには保険適用は欠かせない」と話す。日本出医療・介護ロボットの実用化、ビジネスモデルを確立させようとするならば保険適用の積極化が必要だろう…。当然、安全性や費用対効果など医療経済面からの厳格な評価は重要だが、ここに産業育成の視点を加えることが求められている。
 少子高齢化は日本に限ったことでなく、今後多くの国が直面する課題とされている。高齢者医療・介護を取り巻くさまざまな問題は、世界共通のものとなる。見方を変えれば、その解消は人の生活を豊かにするニーズがあることになる。日本発の次世代産業とし、新たな成長エンジンとすることも可能だろう。
 政府試算では、高齢化の進展で要介護者が急速に増大、2025年には現在(2010年)に比べ、260万人増えて760万人となる見込みだ。それにともなう現場の負担軽減は最優先課題となる。経産省と厚労省は今年度からロボット介護機器の導入を加速させる。特に移乗介助では、介護従事者の7割が腰痛を抱えるという現場の負担の軽減が必要とされており、介助者による抱え上げ動作などにパワーアシストを行うロボット介護機器に期待が高まっている。昨年11月6日から東京ビッグサイトで開催された「2013国際ロボット展」では、経産省が展示ブースを設け、「ロボット介護機器開発・導入促進事業」で開発中の47事業者の主な成果が実演・展示された。

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 将来的に、開発中のこれら介護領域などの機器群が高齢者施設や高齢者の居る家庭、独居高齢者の住まいに普及し、高齢者の日常生活における様々な課題を解決するとともに、介護者の活動をも支援することを大いに期待している。
 なぜならば、高齢化の進行する社会において、さらに増加していく介助や介護を必要とする高齢者や筋力が衰えて自宅に引きこもりがちになり、孤独な状況に陥ってしいまう高齢者等が抱える様々な課題を、全ての人の手による取組だけで改善していくことは難しいと考えるからである。
 しかし、人によるサービスや支援を質量ともに充実させ、より効率的で効果的なサービスや支援を実現するためには、様々な課題解決に的確に応えることが出来る機器群の開発・普及やサービスは必須である。
 2013年は「介護ロボット元年」とも言われ、介護ロボット等の展示会やデモの様子がテレビのニュース等で放送されるだけでなく、特集番組が放送される頻度も増えている。
 9月に公表された内閣府の「介護ロボットに関する特別世論調査」でも、7割強の認知が得られている。また、過去からのレポートのとおり、経済産業省と厚生労働省による開発支援や開発環境の整備、さらに実証試験の支援などの実用化支援事業が本格化している。従来から開発に取り組んできた企業が、継続して多数の機器群を開発し、世に送り出す一方、電子や精密機器等々の大企業から中小・ベンチャー企業においても、新たに参入意向を持つ企業が増加しているように思われる。これらを俯瞰していると、既存の複数の産業・企業の連携や産官学の連携、また産業特区等から、今後の超高齢社会の生活者の実生活を支える新たな事業の芽が一斉に噴き出していることを非常に強く感じる。
 この重要な発芽期に、社会全体で、この事業の成長を見守り、応援することが必要ではないだろうか。そのためには、現在、ロボット介護機器や介護ロボット、福祉機器等々にあまり興味のない若い世代にも、自身の親族や将来的な自分自身の自立した生活の維持、さらに在宅介護等における介護者の負荷軽減を目指した介護ロボット等の開発動向をよく知ってもらうことが大変重要であると考える。そのことにより期待感を含めた潜在的需要がお菊膨らむことが、開発・普及を目指す多様な主体に取って大きな追い風となるからである。同時に、新規性の高い分野だけに開発・普及にはハードルも多数存在するが、世界でも先進的に取組を行っている日本の企業群には、ユーザーの持つ深いニーズを一歩も二歩も先取りして、普及要件を十分に満たした「世界初」の介護ロボットという財・サービスの提供に積極果敢にチャレンジして欲しい。