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2016年(平成28年)
 1月15日
  第31巻1通卷196号
  昭和62年5月22日第三種郵便物認可

チャップリン>196号

 

狙われる高齢者
〜介護保険制度「大幅改正」で跳ね上がる「特養」入居費〜

 2000年からはじまった介護保険制度、今年8月、施行以来最大の大幅改正がおこなわれた。これにより、今、入居している介護施設から退去せざるを得なくなる入居者も出てきそうだ。何といっても今回の改正により自己負担額が従来の6万円程度から15万円程度に跳ね上がるケースもあるという。しかも、今回の改正で特別養護老人ホーム(以下特養)の入居対象者は要介護3以上となった。要介護3といえば、寝たきりよりも軽度ではあるが、排泄(トイレ)、入浴はもちろん着脱衣も自分ではできない。また、認知症が進んでいる場合も多い。
 要するにお金を払えないからといって自活できるわけではなく、介護施設から出ることは、すなわち「死」を意味するのだ。

 なぜこんな改悪になったか。
言うまでもなく介護保険財政が逼迫しているからである。そこで、政府としては利用者の費用負担の見直しを実施することになった。これまでは利用者の所得だけを見ていたが、これからは資産も見て、それを考慮にいれることになった。もちろん富裕層の負担を増やすことに異論はないが、今回、結論から言えば負担が増えるのは実は富裕層ではない。では、今回の改悪で特養の月々の自己負担額が約2.5倍、約9万円も一挙に増えたケースを具体的に見てみよう。

 Aさん・75歳女性・要介護度3・約70万円の国民年金収入・現在特養入所中
 今年7月までの自己負担額は、月61,300円。その内訳は、
   ・介護サービス費     25,000円
   ・施設家賃(ユニット型) 24,600円
   ・食費            11,700円
 A子さんには自活している夫がいる。76歳で自宅で一人暮らし、貯金は500万ほど、年金は月々約24万である。Aさんの夫の年収を計算すると、
  24万円(年金)×12ヶ月=288万円

 それにAさんの年金約70万円を合せると夫婦の年間収入は358万円となる。今回の制度改正では夫婦で年収が346万円以上だと自己負担額が1割から2割になる。つまり自己負担額が倍になるわけである。
 一方、特養の家賃、食費に関してはAさんは、これまで年収80万以下の低所得者と認定されていたため「負担低減制度」の適用をうけ、家賃の自己負担額は通常金額の約4割、食費は約3割以下に抑えられていた。
ところが今回の改正で、夫婦の合計年収で判断することになったので、従来の低所得者の基準をこえてしまいAさんは今年の8月からは、通常の金額を支払わなければならなくなった。
 その結果、Aさんの月々の自己負担額は、
 ・介護サービス費     50,000円(以前は、25,000円1割負担から2割負担になったため倍額)
 ・施設家賃(ユニット型) 59,100円(以前は、24,600円)
 ・食費            41,400円(以前は、11,700円)
合計すると、15万500円となり、従来の61,300円から89,200円も増えたことになる。このようなケースは特養だけではない、老人保健施設(老健)、介護療養型医療施設(療養病棟)も同じである。
 Aさん夫婦のように月々約29万8,300円の年金は高額年金者の部類に入るだろう。
単純計算であれば、おそらく出費アップにも耐えられるかもしれない。ただ、水道光熱費や通信費、その他諸費用のこともある、楽観はできない。現在は夫が元気だからよいが要介護になり入所となれば一気に家計をアッパックする可能性は高い。今は、老後を経済的に安心して暮らすには3000万円、夫婦で4000万円が必要であると言われている時代である。

 自営業者の場合、国民年金の保険料を満額払っても受給額は年間わずか80万程度、サラリーマンの夫を支えたAさんとあまり変わらない。そんな自営業者から見れば、夫婦で年間350万円も年金がある人の自己負担額を上げるのは当然と映るだろう。会社を立ち上げ商いを行い税金を払い、雇用の場もつくってきた。日本経済に少なからずも貢献してきた自負があろう。ただ、自営業者の場合、納税メリットもいくぶんかあるので単純な比較はできないのだが。

 今回の改正では夫婦の合計年収が346万円以下であっても自身の資産が1千万円以上、夫婦で2千万円以上なら、施設家賃・食費は通常額払わなければならない。ちなみにその資産の対象は貯金、信託、有価証券、タンス預金。ただし不動産(自宅も含む)、生命保険、貴金属その他動産は対象外となる。また、これらは全て自己申告である。そして今回の家賃・食費の通常額の支払対象には、遺族年金、障害者年金などの他の年金受給者も含まれる。本来これらの年金は、働き手と死別したり、障害で働くことができなくなったから生活困窮に陥らないために給付されるものだ。それも自己負担額増の判断材料にするにはいささか乱暴な気がする。